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| なぜ、脳梗塞を選んだかというと・・ | |
| 現在、脳梗塞は増加の一途をたどっていますが、どういうわけか、脳梗塞の神経因性膀胱について、実践医療に役立つ、気の利いた解説書というものがありません。神経因性膀胱の治療は、歴史的には、戦争や労災による外傷性の脊髄損傷とともに進歩したという背景があります。脳梗塞を含めた脳卒中の研究も精力的に行われた時期はありましたが、残念なことに、系統だった診療マニュアルがつくられたことはありませんでした。私は以前よりこの点を危惧している者の一人だったわけですが、以前(北大勤務時代)私のグループで尿失禁の教科書(泌尿器科外来シリーズ:5巻:尿失禁外来 メディカルビュー社 小柳知彦編)を作成した際、あえて'老人の尿失禁の診断と治療'の中に'脳血管障害における下部尿路機能障害'の項を設け自身が執筆を担当したという経緯がありました。そのようなわけで(私のこだわりとして)、今回最初の各論に'脳血管障害の神経因性膀胱'を選びました。 | |
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| 脳梗塞の神経因性膀胱 | |
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脳梗塞は脳の血管がつまる病気です。突然に発症しますが、その原因には長い間の動脈硬化やある種の心臓病が関係しています。脳の血管が詰まるといろいろな神経症状を起こしてきます。左右どちらかの半身片麻痺は脳梗塞の代表的な神経症状ですが、これに言語障害を伴う時もあります。これらの症状は後遺症として残りやすく、その後の人生で長く不自由な生活を強いられますので、ご本人にも家族の方にも大変な病気といえます。 実は、手足の片麻痺症状の陰に隠れてあまり知られていませんが、脳梗塞の時に高率におこる後遺症として、'神経因性膀胱'といわれる排尿障害があります。 どのような症状かというと、尿を我慢したいのに我慢できない、あるいは、排尿しようと思うのに出せないというものです。正常な排尿は、我慢したいときに我慢がきき、用を足したいときに足す事ができる、という状態ですから、あべこべ、ということになります。手足の麻痺や言語障害が患者さんに苦痛を強いる障害であることは言うまでもありませんが、排泄の悩みというのも、本人にしかわからないとても大きな悩みです。 これらの排尿症状は、専門的な言い方をしますと、@意志とは無関係な膀胱収縮とA意志による排尿の障害という二つの病態の組み合わせによって生じています。 意志とは無関係な膀胱収縮(@)は、急に尿意を催して我慢ができない状態を引き起こします。病気になる前には、尿意を催してからゆっくり余裕をもってトイレにいけたはずの方も、脳梗塞になってからは、行こうと思った時にはもう間に合わないという患者さんが多くなります。歩行が不自由なって、トイレにたどり着くまでの時間も以前よりかかるようになっていますから、余計に大変です。 意志による(随意的な)排尿の障害(A)とは、自分でトイレにいって尿を出そうと思ってもうまく出せない状態のことです。脳梗塞になる前には、尿意を催したときはもちろん、外出する前など特に尿意のない時でも、自分の意志で排尿することが可能であったはずです。しかし脳梗塞の患者さんの多くは、強い尿意を催している時(たいていは@の状態の時)以外にはうまく排尿できないのです。 @とAは両立しないのではないかとお思いになる読者の方がいるかもしれません。しかし、実際には、ひとりの患者さんにあるときは@が、あるときはAがというように、両方が現れることになります。尿を我慢したいのに我慢できない、しかし、尿をしようと思うときにうまく出ない、という二つの異常が混在した状態になるということです。これが、脳梗塞の排尿障害が複雑である理由のひとつなのです。 2つの異常は、脳梗塞の患者さんでみな同じようにあるわけではありません。患者さんごとにそのブレンドの割合が異なっているので、患者さんによって症状は少しずつ違います。ですから、患者さんにあわせたオーダーメイドの治療が必要になってきます。 もし仮に、@が高度でAがほとんどなければ、尿意切迫感・尿失禁はありますが、排尿のしずらさはほとんどなく残尿もありません。この場合は、お薬(抗コリン薬)で膀胱の不随意な収縮を抑え、尿失禁を良好にコントロールすることができます。 逆に、Aの障害が高度で@がなければ、残尿が非常に多い、慢性尿閉の状態になります。その場合、排尿を促進するお薬(α1遮断薬やコリン作動薬)を使うこともありますが、薬の切れ味が悪く、あまり効果は期待できません。場合によっては、カテーテルを使う排尿方法やオムツの使用も考慮しなくてはならないかもしれません。 実際の患者さんの多くは、上記2つの例の中間のどこかに位置しますので、尿意を急に催してトイレに行きますが、排尿は途中で中断し、残尿を残すというような状態になることが多いのです。そして、その残尿量が多いほど、また膀胱の不随意な収縮が起きやすい患者さんほど、頻繁に尿意を感じて困ることになります。 膀胱の不随意な収縮を抑制する薬(抗コリン薬)は、残尿が少ない時にだけ有効です。この薬は切れ味が良い反面、逆に残尿を増やしてしまう傾向があるため、残尿の多い時には、尿がでなくなったり、逆に頻尿を助長したりしてしまうことがあり、かえって用いない方がよい場合も少なくありません。 幸い脳梗塞の排尿障害では、脊髄損傷・二分脊椎症・中枢神経変性疾患などにおける排尿障害などの場合とは異なり、膀胱の上にある腎臓まで障害を及ぼすことはほとんどありません。したがって、脳梗塞の排尿障害における治療の到達目標は、腎障害の予防ではなく、生活の質(QOL)を維持することであるといっても過言ではありません。いわゆるQOL diseaseであるということです。その意味で、脳梗塞の神経因性膀胱の治療理念は、'患者さんにできるだけ負担にならない治療で、患者さんの生活の質を最大限にアップさせるにはどうしたらよいかを考えること'であるといえます。 もう一つ・・・ |