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肥大のない肥大症とはおかしな話と思われるかもしれません。しかし、前立腺肥大症の病名で治療を受けている患者さんのうち、かなりの方(確かな統計はありませんが、半数はそうかもしれません)は、肥大のない肥大症です。中には、平均よりかなり小さいのに肥大症として治療されている場合もあります。
なぜそうなっているのでしょうか?・・・理由はいくつか考えられます。
ひとつは(ちょっと専門的になりますが)前立腺肥大症の本質を過形成とみなす考え方があるからです。過形成というのは前立腺を顕微鏡で見たときにわかるミクロの老化現象ですが、肥大症とは、このミクロの変化が進んだ結果のマクロの形であると考えられます。しかし実際には、肥大までには至らない過形成の前立腺が多数みられ、その場合でもある程度の排尿異常をきたす可能性があります。従って、肥大していなくても肥大症の治療が適応となる場合があるのです。
もうひとつの理由は、保険病名というものの存在です。保険診療で薬を処方する時には、必ず、その薬が認可された病名をつけなければなりません。もしこれに従わないと、健康保険から医療機関に医療費が支払われないという不都合が生じます。したがって、実際には肥大がないけれども肥大症の薬を使いたい患者さんがいる時には、必ず前立腺肥大症の病名をつけて処方することになります。
すでに賢明な読者の皆さんはお気づきになっていると思いますが、前立腺が小さくても肥大症と同じ症状が起き、同じ薬が使われるのならば、いったい肥大症とは何なのだろうか、という疑問にぶつかるわけです。
ここ10年の臨床研究の結果、これまで前立腺肥大症によると思われていた排尿異常の原因の一部が、実は、排尿をつかさどる神経や膀胱の機能異常に基づくものであることがわかってきました。このことは、前立腺の肥大がなくても、神経や膀胱の機能異常によって肥大症と同じような排尿障害を起こす事があることを物語っています。
一見、肥大症のような症状があっても、肥大とは限りません。一方、肥大があっても、症状は肥大とは無関係かもしれません。また、肥大症の薬は、肥大がなくてもある程度は効果のあることが多いのも事実です。
前立腺肥大症という病気の概念自体が、今、問い直されているのです。
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